ロマン主義アニメ研究会

感想、考察、等。ときどき同人誌も作ります。ネタバレ注意。

Ra*bitsにおける「かっこいい」/「かわいい」問題の系譜────「BADBOYS」から「ブラックバニー」へ(『あんスタ』)

あんさんぶるスターズ!!Music』の「Ra*bits」イベント「Wander!ブラックバニー in UNDERLAND」(2021/5)について。その2、です。

(その1は、こちら。) 

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Ra*bitsの「楽曲」だけ並べてみると、今回のダークな雰囲気の「FALLIN’ LOVE=IT’S WONDERLAND」は、ずいぶん唐突な路線変更のように見えるかもしれません。「Joyful x Box*」とか「Love Ra*bits Party!!」とか、直近の「Love it Love it」などと比べると、かなり違った雰囲気の曲です(Ra*bitsプレイリストを作って聴いてると、イントロだけで明らかにちがう!と感じる)

しかも、そのことの説明がストーリーでは薄いようにも見えるし、どういうこと?って・・・。イベントストーリーでは、表面的には、単なるライブの仕様書の見間違いという偶然的な理由によるものです。企画書を読み間違っていたね〜、あらら〜〜、でもやってみよっか〜、みたいな・・・。

けれども、これまでのストーリーを踏まえるならば、これはそれほど大きな路線変更とか、珍しいことをした、というわけではないと思います。むしろ、ちょうど1年前くらいから積み上げてきたことの一つの成果が現れている、と言えるでしょう。もともとRa*bitsは「かわいい」を追求しながらも、同時に「お人形」になることを拒否し、「成長」する姿を見せようとするユニットだったと思うからです。・・・もちろん、「かわいい」けど「お人形」にはならない、というのは、なかなか難しい挑戦であるとも言えるわけですが。そのようなお話を少々。 

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【もくじ】

 

Ra*bitsの「かっこいい」歴史 〜「BADBOYS」から「ブラックバニー」へ

まず第一に、すでにRa*bitsの活動の中には、「かっこいい」路線が存在していました。例えば、次のような一連の流れが見出せるのではないかと思います(他にも細かいものなど、たくさんあると思いますが…)。*1

「ナイトキラーズ」(なずな)

(「ハロウィン」イベント 〜概念整理)

「スカウト!BADBOYS

(「成長見せてハイタッチ」イベント 〜概念整理)

「恋の√はAtoZ」イベント(光)

「ブラックバニー」イベント=今回 

とりわけ「BADBOYS」スカウトは、今回の「ブラックバニー」イベントと非常によく呼応し合うというか、関係があるように思います。どちらも同じ季節「秋」ですし、ちょうどあれから1年が経ったのです。

あのときはまだ、Ra*bitsの「かっこいい」系の実績はなずなの「ナイトキラーズ」しかありませんでした。それでも、なずなは下級生たちにはこんなかっこいい系の、イメージの違う姿は見せられないな〜などと言っていたように(そんななずながまた「かわいい」のですが…アニメでも描かれていました)、「かっこいい」路線はかなりチャレンジングなものという認識があったようです。

そして、そんな「ナイトキラーズ」で「かっこいい」に〜ちゃんを見て、Ra*bitsの下級生メンバーたちは、俺たちももそういう「かっこいい」系のもやってみたいんだぜ〜!!って盛り上がる(かわいい)・・・というお話が、「BADBOYS」スカウトなのでした。

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(↑ 仁兎なずな[悪さの手本]才能開花前がナイトキラーズ衣装。)

しかしそのときは、特になずなが、不安を示しています。Ra*bitsは「かわいい」でこれから売っていきたいのに、「かっこいい」をやって、評判が落ちたり、イメージがぶれてしまわないだろうか・・・と。

このときから比べると、1年が経った今回の「ブラックバニー」では、もちろん戸惑いも見られますが、1年前のような不安は見られません。それはこの1年でのRa*bitsの歩みがあったからなのだと思います・・・。

「かっこいい」/「かわいい」の両立 〜「かわいい」概念の深まり

それというのも、今や、Ra*bitsの考える「かわいい」概念の中には、「かっこいい」も含まれうるのです。もちろん、そのような「かわいい」についての彼ららしい考え方や目標が、明確に整理されるようになるには時間がかかりました。つまり、1年間かかったのです。

例えば、「お化けがいっぱい!スイートハロウィン」(『!』)や、「再開*成長見せてハイタッチ」(『!!』)で描かれていたように、これまで、Ra*bitsが目指す「かわいい」ってなんだろう? っていうような試行錯誤が続けられてきました──ときにはちょっとしたぶつかり合いもありながら。

 

──「ハロウィン」イベント

「ハロウィン」では、特に創くんと友也くんとの「けんか」を経て、既成の「かわいい」の枠組みにとらわれなくてもいいんだ、僕たちらしい、Ra*bitsらしい「かわいい」を追求していこう、という気づきを得ています。

「かわいいにも、いろいろ種類があるんです/ぼくたちなりの、ぼくたちだけの、かわいいを追求していくべきだと思います/・・・/みんなで意見をだしあって、知恵を絞って、いちばん『Ra*bits』らしい『かわいい』を見つけましょう/かわいいのに怖い、怖いのにかわいい、みたいな…… ♪」(創)

「何なんだそれは。……でもまぁ、それが『Ra*bits』だよな/・・・/単にかわいければそれで良い、って『ユニット』じゃない……。それが『Ra*bits』だし」(友也) *2

ここでは、創くんと桃李くんとの関わりも影響していることが説明されていましたが、そうやって、メンバーがいろいろなことを経験していく中で、「かわいい」の捉え方も深まり、変化していっているようです。

 

──「ハイタッチ」イベント

また「ハイタッチ」で、「かわいい」の概念はいわばバージョンアップされたと思います。「かわいい」には多様な意味があって、そこには色んなものを盛り付けていけるんだ、例えば「屈強な男」すらも包み込んでしまえるような・・・。だからきっと「かっこいい」も、「かわいい」と言えるし、その逆も言えるのではないか、ということになると思います。

「おれもさ、ちょっと勘違いしてたんだけど。いかにも屈強な大の男だって、『かわいい』って言われることがある/・・・/『かわいい』って、もっと奥深くて千差万別で、色々あるってわかったんだ/・・・/だから、何も心配はいらないんだ。おまえも、おまえも、おれも──かわいいんだ。・・・/・・・今後もそれぞれが・・・いろんな『かわいい』を見つけて拾って/自分のものにして持ち寄ろう。それを舞台で見せびらかそう・・・」(なずな) *3

ここでも、特になずなの進学→復帰という出来事を通じて、「かわいい」の考えが深まっています。

詳しくは、 

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こうした試行錯誤を経て、しだいにRa*bitsは、今や「かわいい」は「かっこいい」とそれほど対立的な概念ではない、むしろ「かわいい」の中に「かっこいい」も含まれるかもしれない、というような境地に達しつつあります。

 

──光くんの活躍

その結果、最近では「かっこいい」系の活動も、特にソロ活動などでなされてきています。ご存知のように、特に『!!』に入ってから光くんは「かっこいい」で売れてきているようです。例えば、ドラマで「かっこいい」役を演じたりして、光に「恋をした女の子もたくさんいる」らしいと言われています *4 。「デートプラン」を考えるというシャッフルユニット企画に光くんが参加している *5 のも、こうした活躍と関係があるでしょう。

そしてそんな光くんが引っ張るような形で、今回の「ブラックバニー」では、「かっこいい」と「かわいい」の両立にチャレンジしてみよう!と、決断するに至るのです。

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かわいいとかっこいいの両方をやろう!と言う光の提案に対して、他のメンバーも、

格好いいことをしたからってかわいいところは無くならないはずです」(創)

「そんなでおれたち『Ra*bits』は揺らがないはずだろ?」(なずな)

「よ〜し! ここはひとつ挑戦してみよう……!」「イメージがちがうって言うひとには、前言撤回させるぐらいもっと好きになってもらおう!」(友也)

(「Wander!ブラックバニー in UNDERLAND」、「Ra*bits with Jumping /第二話」)

というように、前向きにチャレンジすることができたのです。今回のイベントストーリーのこの会話の部分だけをみていると、割とあんまり悩まないでチャレンジしているように見えるかもしれませんが、すでに1年間さんざん悩んできたから積み重ねがあったからこそ、今回は割とあっさりと決断できたのだと思います。

「成長」×「かわいい」というテーマ

・・・なんだか、こういうRa*bitsの歩みを見ていると、まさに「はしゃいだり迷ったりをリプレイ/成長っていうんだろう」っていうあの歌詞 *6 そのもので、非常に尊いですね…(あの歌の歌詞って本当によくできていて、いつ何度聞いても味わい深いと思う)

そもそも「Ra*bits」というユニットには、「かわいい」だけではなく、「成長」というテーマがありますよね。そのようなことはメンバーもお互いに話すことがありますし、Ra*bitsの歌の歌詞にも出てきます。

ただ同時に、「成長」は、やっぱり「かっこいい」と同じく、「かわいい」と相反するのではないか、とも考えられます。これはもう具体的な話としては、フィジカルな意味で「成長」すると、骨格がゴツくなったりして、かわいくなくなるんじゃないか、といったようなことで悩んでいたことありました(「スカウト!BADBOYS」──しかもそのことを特に悩んでいたのは、この時は光くんだったというのは興味深いところです)。

「お人形」は「成長」しません。なるほど、「お人形」は「かわいい」。ということは、ひっくり返して、「かわいい」は「お人形」?(になることだ)、ということになってしまうのでしょうか? もしそうならば、「かわいい」を目指すRa*bitsが、同時に「成長」をテーマに据えることは、もともと不可能だということになってしまいます。もしそうであるならば、そもそも、なぜRa*bitsは、「かわいい」のみならず、わざわざ「成長」をテーマに掲げなければならなかったのでしょうか?

お人形はかわいい、かわいいはお人形? ──なずなのジレンマ

かつてレオが次のように指摘したことがあります。

「むしろ永遠に子供っぽいほうが不自然だろ/おまえがシュウのところ[=Valkyrie]にいたころみたいに、時間が止まっちゃったみたいにさ」、「それが嫌だから飛び出したんだろ、 ちゃんと人間として生きたかったから・・・」(レオ) *7

ここでレオが話しているように、なずながValkyrieを抜けた理由は、一つには「成長」を止められてしまいそうに感じたこともあったと言えるでしょう(わかりやすいのは、声変わりを隠す、など)。なずなは「お人形」であることをやめたいと願ったのです。

したがって、そんななずなが一年生たちと結成したユニットが「Ra*bits」であるからには、そこが「成長」を止められるような場所──「お人形」の「ショウケース」のような場所になってしまってはならないのです。たとえ「Ra*bits」が、「かわいい」をテーマに掲げていたとしても。

「おれは、おまえたちを、斎宮が言ったみたいな『都合良く慰めてくれるお人形』にしたくないから」(なずな) *8

だからRa*bitsは最初から、「お人形」的ではない「かわいい」を探求する、というテーマが課せられていたと言えるのであり、つまりRa*bitsにとって、人間らしい「成長」というものは外せないテーマなのです。

しかしこう考えると、Ra*bitsが、特になずながそこに加わって結成されるということは、とても微妙で、すごく難しい挑戦だったとも言えるのではないかと思います。「かわいい」というテーマは、「お人形」であることをやめたいにも関わらず、それとたやすく結びつきやすそうなものだからです。「かわいい」にこだわる限り、微妙なバランスを絶えず保って、気を配らなければ、すぐに「お人形」扱いに逆戻りしかねない。実際、『!!』での創くんは、「美少女」という「お人形」的な方向に引きずられそうな危機にあると思います。

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(↑「モーメント*未来へ進む返礼祭」プロローグ)

けれども、そういう微妙なテーマであるにも関わらず、偶然の成り行きもあったとはいえ、なずなが「かわいい」をテーマにするユニットに加わったことは、彼にとって、ある意味で必要なことだったのかもしれません。なずなは、自分が望んだことではないのに、昔から自分の顔立ちが綺麗で「かわいい」と言われ続けてきた、と独白していたことがあります。それは、本人の意図とは別に、周囲が勝手に言っていることに過ぎない。しかし次第に、外見ばかり褒められて、本当の自分を見てもらえていないように感じてしまい、だんだんと、なずなの心のなかにはぽっかりと空洞が生まれていってしまいました ・・・「心が死んでいく」*9 。なずなは、そうした心の空洞を埋めていく作業──かつて心に空洞をもたらした、その「かわいい顔立ち」を、今度は自覚的な”武器”として、自分のものにして、自由自在に使いこなしていこうとする──それがRa*bitsであって、そうすることによって、なずなは、心の空洞を埋め、また自分自身を取り戻していくことができたのかもしれません。

──というより、そんなふうに自分自身を取り戻すつもりでValkyrieに入ったけれども、そこでもやっぱり心が空っぽのお人形にさせられそうになってしまった・・・だからなずなは、Valkyrieでできなかったことを、Ra*bitsで成し遂げようとしたとも言えるでしょう。

「かわいい」は「成長」する

つまり、こうしたRa*bits結成以来の、「成長」×「かわいい」という、微妙なバランスを要するテーマを追求していくプロセスが、この1年間だった、ということもできるのです。その過程で、なずなは、そしてRa*bitsは、「成長」と「かわいい」の、表面的な矛盾を乗り越えて、新しくてオリジナルな「かわいい」の次元へと進みつつあるようです。それが、先ほども確認したような、「かっこいい」ものだって、不完全なものだって、なんだって包み込むことができるような、多様性に富んだ「かわいい」の概念です。

おれたちは人形じゃないんだよ。人間は雑菌だらけで汚くて、触れ合うだけでなんらかの病気が感染する危険性があって──/それでも、互いに寄り添いあいながら生きていくしかないんだ」 *10

実際、「成長」しようとしてがんばる姿は「かわいい」ものでもあるし、また「かっこいい」ものでもあるかもしれない。「お月見ライブ」では、まさに神崎先輩が友也くんのことをそのような気持ちで見守っていました *11 。

また、あのお師さんでさえ、「返礼祭」でRa*bitsのステージを見て、「少年が青年になりかわる瞬間の美、羽化の奇跡をこんな永く楽しめることなど本来有り得ないからね/あぁ、美しいねぇ……。君たちは偉大だよ『Ra*bits』・・・」と、「うっとり」していましたが *12 、この「少年が青年に・・・」というあたりは、いかにもこういったジャンル(?)が好きな人ならば言いそうなこと(うん、私も含めて・・・)、という感じがしますが、よく考えてみますと、「羽化」などと、「お人形」にはありえない表現、つまり「成長」に関わる表現を使って、その「美」を褒め称えています。つまりお師さんの中でも、「美」とか「かわいい」の概念は進化していて、「成長」と両立するものになっているということです。

もちろん、先ほど引用したなずなの独白「いかにも屈強な大の男だって、『かわいい』って言われることがある」にもあるように、なずな自身もまた、「成長」と「かわいい」の両立の境地に達しているのはいうまでもありません。

つまり、「かわいい」を目指すからと言って、必ずしも、成長しない、フィクションのような、作られたような・・・つまり「お人形」にならなくたっていい──Ra*bitsは、その活動を通して、まさにこのことを証明しつつあるのです。

そして今回の「ブラックバニー」イベントは、そのようなRa*bitsの進化、つまり「成長」の成果がはっきりと示された、一つの到達点として理解することができるのではないでしょうか。

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創くんのジレンマ。再び。「美少女」という「お人形」。

しかしながら、いま再び、創くんが、このフィクションのような、作られたような・・・つまり「美少女」という名の「お人形」にされそうになっています。かつてなずなが直面したのと同じジレンマが、また創くんにも生じてきているようなのです。

その意味では、友也くんがかつて感じていた「違和感」は、実は、当たっていたのかもしれません。「美少女」になろうとするのは、何か違うのではないか・・・? という、あの創くんと友也くんとの「けんか」です *13 。直接的に、創くんが今感じている違和感とつながるものではなさそうなのですが、とはいえ、何か、幼馴染の直感のようなものとして、感じるものがあったのかもしれません。

この創くんの問題については、次の記事で詳しく考えてみようと思います。どうしたら創くんが幸せになれるのか(創くんにはとにかく幸せになってほしいから)。「本当の創くん」は、どうしたら伝わるのか。

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*1:すみませんが(?)、Ra*bitsの創くん以外のメンバーの動向については、あんまり把握できていない部分があるので、見落としているものがあるだろうと思います…。だっていろいろ膨大なんだもん〜あんスタって〜。──そういえば『あんガル』のシナリオも読みたいな〜と思ってアプリ入れてからもうずいぶん経ってる…。『あんスタ!&!!』って、入り口はすごくイージーな感じがするのに(かわいい男の子がいっぱい見れますよ〜くらいの)、入ってみたら、オイオイこの中はどんだけ広いんだよ…って気づいて、それからずっと泳ぎ続けてるけど、まだ全然わからないことがたくさんある。文字通り沼のような。いいんだけどね、泳いでて進まないのも、沈んでいくのも、気持ちの良い沼だから。

*2:「お化けがいっぱい!スイートハロウィン」

*3:「再開*成長見せてハイタッチ」

*4:「再開*成長見せてハイタッチ」イベント。

*5:「SHUFFLE×恋の√はAtoZ」イベント。

*6:「ONLY YOUR STARS!」、作詞:松井洋平、作曲:中土智博。

*7:十五夜 玉兎跳ねるムーンライト」

*8:「追憶*マリオネットの糸の先」

*9:なずな──「モーメント*未来へ進む返礼祭」、プロローグ。

*10:「再開*成長見せてハイタッチ」

*11:十五夜 玉兎跳ねるムーンライト」

*12:「モーメント*未来へ進む返礼祭」

*13:「お化けがいっぱい!スイートハロウィン」