ロマン主義アニメ研究会

感想、考察、等。ときどき同人誌も作ります。ネタバレ注意。

創くんは「天使」なんかじゃない/である──「紫之創の物語」について(『あんスタ』)

 創くんは、天使であり、かつ、ない。

 本当の創くんは、語りえない、だが、示しうる。

 ──奏でよう、無数の「創くん」たちのアンサンブルを。

「ブラックバニー」イベントに関連してどうしても考えておかねばならないのが、私の大好きな紫之創くんの「天使なんかじゃない」問題です。みなさんご存知の通り、創くんの最近の悩みは、アイドルとしての固定的なイメージ(「天使」のような)を押し付けられそうで、「もやもや」しちゃう、というようなものです。・・・創くんがそんなふうに悩んでいるのは、私もつらいです…。

この「ブラックバニー」企画へのチャレンジは、そんな創くんにとって、少しでもプラスの意味があるのではないか? と思います。「お菓子の家」スカウトなども手がかりにしながら、少し考えてみましょう。

「紫之創の物語」が、「めでたし、めでたし」に辿り着きますように!

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(↑「こんなにきれいな虹が見られるなんて、雨に感謝しなくちゃです……♪」 *1  ・・・って言っていたけど、創くんの「悩み」も、こんなふうになったらいいなって思う。) 

【もくじ】

あんさんぶるスターズ!!Music』の「Ra*bits」イベント「Wander!ブラックバニー in UNDERLAND」(2021/5)について、その3、です。(↓その2、はこちら。)  

「紫之創の物語」

「スカウト!お菓子の家」ストーリーでは、

「これからも精いっぱい、ぼくなりに紡いでいきますね/『めでたし、めでたし』で終われるような、紫之創の物語を……♪」(エピローグ)

と語っていました。

時系列的に見ても、今回の「ブラックバニー」は、まさにその「紫之創の物語」の一部になるわけですが、これは創くんが「めでたし、めでたし」へと向かううえで、どのように位置づけられるのでしょうか。またそもそも、創くんにとっての「めでたし、めでたし」って、どのようなものなのでしょう? (天使イメージを払拭して悪魔になっちゃうこと?…ではなさそうですよね?)

ちょっと問題を整理してみましょう。

創くんの近頃の悩みは、

・アイドルとしての特定の「イメージ」を押し付けられて、固定化されそうなこと

・「本当の」創くんの姿をうまく伝えられていないこと

の不安だと思います *2 。

「最近はわりと、そういうイメージを押し付けられがちで……しんどいですけどね」 *3

「それがぼくの本来の姿かっていうと、ちょっと違うんです」「ぼくは自分自身の姿を見せられてないんです──今は、まだ」 *4 

これはすでに『!』の頃から少しずつ出てきていることではありましたが(例えば「良い子」という概念をめぐって)、『!!』に入って、プロのアイドルとしての活動が増えていく中で、クローズアップされてきています。

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創くんが悩んでいること──「美少女」問題の根本にあるもの

特に、「美少女」的な売り出し方が創くんは最近なされていて、このことに関連して、こうした「不安」が語られることが多いのですが──私のみるところ、問題の本質は、「美少女」として売り出していることそのものにはないと思います。

このことは、私もわかっていたつもりでやっぱり少し誤解していた気がしますし、誤解されがちなのではないかと思いますが、創くんは丁寧に、何度もそのことについて説明をしています。

例えば、仕事の一環としてそういう「美少女」的なことをして、しかも喜ばれるのは嬉しいことだ、というように語っています *5 。

つまり、創くんは「美少女」として仕事をすることそのものを嫌悪しているのではなく、そのような仕事「ばかり」をすることで、そのような特定のイメージが固定化されることが嫌だ、と思っているのです。またそれによって、「本来の姿」が伝わらなくなって、押し込められてしまうのが嫌だ、と言っているのです。これは微妙なようで、大事な違いだと思います。

例えば、創くんはこの問題について、自分は「フィクション」の存在のように振る舞えないんだ、というようにも語っていました *6 。だから創くんはかつてのなずなと同じ道を辿りつつあるとも言えるかもしれません。つまり創くんもまた、「フィクション」のような、作られたもの=「お人形」のような存在に仕立て上げられつつあって、そのことに不安を感じているのです *7 。

また、なずなはかつて脅されたり強制されてValkyrieの活動をしていたわけではもちろんなくって、なずなにとってValkyrieは確かに大事な居場所でもあった。お師さんに喜んで貰えることは、なずなにとって嬉しいことでもあった。この点も、今の創くんと似ている状況だと思います。

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(↑「夢に見た幸せな景色のなかに辿り着けない気がして、ぼくは怖いんです」 *8  「紫之創の物語」の結末は「幸せな景色」であってほしいです。)

天使なんかじゃない、小悪魔──「ブラックバニー」

つまり、かつてのなずなにおける「お人形」にあたるものが、いまの創くんにおける「美少女」や「天使」なのだと思います。「お人形」であるのをやめたくてなずなはValkyrieを飛び出した。創くんもまた、「天使」であることをやめたい・・・。

「ぼくだってべつに、頭の天辺から爪先まで清らかな天使なんかじゃありませんから」 *9

こうしたことを踏まえるならば、今回の「ブラックバニー」のような企画は、そんな創くんのイメージの固定化に対して、ちょっとばかりそのイメージを撹乱するというか、揺さぶりをかけるような効果があったのではないかと思います。

だって、要するに今回の創くん、”小悪魔”でしたよね? (──ああ、あの素敵な創くんを、なんかこんなありがちな言葉で表現するのがもったいないんだけど・・・だからここまでこの言葉を使わなかったんだけど・・・でも気付きますよね、「小悪魔」なんて言っちゃうと陳腐で安っぽく、創くんの複雑な魅力を組み尽くしていない気がする・・・と、いうことは、また同時に、反対の意味の「天使」っていう言い方も、やっぱりありがちな表現で、だからやっぱり陳腐なイメージの固定化なのでしょう…。)

創くんは、「美少女」「天使」もできるし、ちょっとダークな小悪魔ちゃんもできるし・・・っていうように。

そうして、これからもいろんな角度から見た創くんの像を次々と示していって、そのなかで、ちょうど分散した光の束が再び重なり合う”焦点”のような場所に、しだいに「本当の」創くん、真実の創くんの姿、というようなものが、ゆっくりと浮かび上がっていく・・・というようなことになってくれればいいな、と私は願っています。それが「紫之創の物語」の「めでたし、めでたし」なのかな、って。

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”ほんとうの”創くんはどこ? ──語りえぬものと示されるもの

そもそも、創くんの言う「本来の姿」「自分自身の姿」って、なんなんでしょう? それが「何」であるかは、直接に具体的には、語られていません。というのも、それはおそらく、”語りえない”ものだから。本当の「ぼく」、本当の創くん・・・それは、「これです!」というように、特定の形容詞ではっきりと表現できるようなものではないのです。もしそんなふうにイージーに表現できてしまったように見えたならば(SNSのプロフィールみたいに)、それはすでに、本当の私、本当の創くんではない・・・それもまた特定の「イメージ」像に過ぎないのです。

ではそれ(創くん自体)は、どうやって”示せ”ばいいのでしょうか。

「いい子なところも、悪い子なところもひっくるめて、ぼくはぼくなんです」 *10

それは、さまざまな創くん、さまざまな「ぼく」を、次々と示していくこと──そう、次々と、良い子な創くん、悪い子な創くん、天使の創くん、(小)悪魔の創くん、・・・・っていうように、そうやって一つのイメージが固定化しないように、絶えず揺さぶり続けること・・・これは具体的に言い換えるならば、たくさんいろんなことに次々とチャレンジして、いろんなアイドル活動に挑戦し続けていく、っていうことしかないと思うのです。「お菓子の家」でも、ファンに対して、丁寧にちょっとずつ、本当の自分を伝えていければいいな、っていう結論だったと思います。

もちろん、いろんなアイドル活動にチャレンジできるかどうか・・・これはたやすいことではありません。アイドルはお仕事で、そういうお仕事を頼んでくれる人がいないと、活動できないわけですから・・・。

けれども今回の「ブラックバニー」は、やっぱり光くんや、他のRa*bitsのメンバーという、創くんとは少し毛色の違う仲間がいたからこそ、できたことだと思います *11 。そんなふうに、ユニットのメンバーにはいろんな違いがあって、「でこぼこ」しているからこそ、いろんなことに挑戦できて、まったく新しいアンサンブルを奏でることができる──それこそが、『あんスタ!!』における「ユニット」の意味なのだと思います *12 。

(…っていう、「天使」よね……)

でもね・・・。創くんには少し申し訳ないとは思うけど・・・そういう「天使なんかじゃない!」ってわざわざ自分から言ったり、悩んだり、そしてどうやったら本当の自分が伝わるんだろう、って真剣に考えて、努力しようとしたり・・・っていう──だから本当に創くんには申し訳ないんだけど(?)・・・こういうお姿そのものが、もうすでに、すっごく純粋で、すっごく素敵で美しくて、つまり・・・すっごく「天使」だなあって、思っちゃいますよね・・・。

でもこんなこと言うと、そんなことないです!とか、ああやっぱり本当のぼくは伝わらないんだ!(また「天使」イメージに押し込められちゃうんだ!)とか・・・そんなふうにまた悩んじゃうと可哀想だから、創くん本人には(仮に言う機会があっても)、絶対に言わないようにしないとね・・・。

でもなんか、ここに手がかりがあると思うの。

創くんが「天使」問題をどうやって乗り越えていくのか、っていうことの・・・。固定的なイメージとしての「天使」じゃない、よりワンランク上の「天使」・・・つまり、本当の意味での「天使」という高みを、創くんは目指せるんじゃないか? というか、すでにもうそうなんじゃないか? って・・・。ともかく、これからも優しく見守りたいです。

無数の「創くん」たちのアンサンブル

だって、私たちは知っているもの・・・。

お兄ちゃんな創くんも、弟くんで甘えん坊な創くんも、

しっかりしている創くんも、どこか抜けている創くんも、

運動音痴な創くんも、意外と腕力がある創くんも、

繊細で優しい創くんも、ちょっとだけ雑で乱暴な創くんも(特に友也くんに対して)

引っ込み思案で人見知りな創くんも、案外だれとでもすぐ楽しくお話しできちゃう創くんも、

怖がりな創くんも、ホラー映画を意外と見れちゃう創くんも、・・・

・・・私たちは知っていて、そのぜんぶが創くんで、しかもそのぜんぶが──そう、そのぜんぶが「天使」だっていうこともまた、知っているの・・・。

おしつけられた「天使」イメージじゃなくて、創くんの「本当の姿」がゆっくりと時間をかけて”示された”とき、ああ、この子はやっぱり本当に天使だったのね・・・って、みんなが気がつく──そうなったときが、創くんが本当にアイドルで、本当に天使になる瞬間で、だからそれが、「紫之創の物語」の「めでたし、めでたし」なのかな、って思います。勝手ながら。

(そしてそのときはもう創くんは、「美少女」の姿をとる必要もない。そもそも「天使」に性別などなく、美少女でも美少年ですらもない。いわばそれは、美そのもの、なのだから。)

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(↑「みんながみんな、幸せになってくれれば嬉しいです♪」 *13 この『!』の「アイドルストーリー」って、嫌な雨が降ったあとに現れた虹に感動したり、それを見てみんなも幸せになってくれたらいいなって願ったり・・・「紫之創の物語」=「アイドルストーリー」の「結末」(「幸せな景色」)を予言するもののような気がしています…そうなって欲しい。)

 

(ねえ、なんか急激に深みのある話になってきたね、自分でも驚いた──あんスタの深さよ・・・。最初に書いたイベントの記事がすっごいアホみたいに思えてきたよ。)

(「ブラックバニー」イベントの最初の記事はこちら。)

miusow.hateblo.jp

 

 

 

*1:『!』アイドルストーリー「紫之創 雨空と傘」。

*2:細かくいろいろなところでこの創くんの不安は示されていますが、今のところ、とりわけ「お菓子の家」のストーリーがわかりやすいと思います。

*3:「バラエティとタッグ ボギータイム!」。

*4:「スカウト!お菓子の家」。

*5:「スカウト!お菓子の家」など。

*6:「バラエティとタッグ ボギータイム!」。

*7:明星先輩は、「美少女」なお仕事をするしののんのことを、「人形」みたいでかわいかったよ!って、褒めていましたが…。「スカウト!お菓子の家」。

*8:『!!』「アイドルストーリー 紫之創 第二話」。

*9:「バラエティとタッグ ボギータイム!」。

*10:「スカウト!お菓子の家」。

*11:例えば、創くんは、もともと光くんみたいなタイプとは仲良しになれてなかったかもしれないけど、同じユニットで知り合えてよかった、というようなことを話していましたよね。「キャロル*白雪と聖夜のスターライトフェスティバル」。

*12:例えば、桃李くんの次の言葉。「ボクたちは歪ででこぼこ。まるでジグソーパズルのピースみたい/でもだからこそぴったり嵌って、景色を広げられるんだよね」──「SHUFFLE×白雪たちのMerryXmas」。またいうまでもなく、特に『!』で描かれたように、個性的なメンバーが結束したときに思いがけない力を発揮する「Trickstar」は、この「ユニット」概念の一つのモデル、理念型のようなものだと言えるでしょう。

*13:『!』アイドルストーリー「紫之創 雨空と傘」。