ロマン主義アニメ研究会

感想、考察、等。ときどき同人誌も作ります。ネタバレ注意。

「私たち、闇の女王」──ミラクルギフトパレード(サンリオピューロランド)から

 サンリオピューロランドの「ミラクルギフトパレード」の素晴らしさについて。特に、「闇の女王」の救済というテーマと、そこに見出されるサンリオの崇高な理念について。キティ、キキララ、メルちゃん、クロミサンリオ男子…みんな、「誰だって暗い気持ちになることがある」。──かわいいギフトが、みんなにも届きますように。

もくじ

いちご、いちごいちご♪

 サンリオピューロランドのミラクルギフトパレードは、本当に本当に素敵なパレード。みんなが本当に可愛い。キティちゃんももちろんだけど、私の大好きなキキララも、お星様の車に乗っていて、手を振ったり、2人で手を繋いだり、何か時々お話し?していたり…。パレードが終わるころなんか、キキくんが「ぼく、お腹すいちゃった」とか言ってそうにも見えたりして、本当に可愛い。マイメロクロミちゃんも可愛かった。結構2人で助け合ったりしていて…クロミちゃんがマイメロを助けているように見える場面もたくさんあった。そうそう、クロミちゃんって、普段あれだけマイメロのこと悪く言っているように見えて、こういう時はさっと当然のように助けたりしてくれそうな、本当に素敵な子なんだよね…、って感動しちゃった。ピアノちゃんも、可愛いワンピースを着て、ぴょこぴょこ行進してて、ぎゃ〜って叫びたくなるくらい可愛かった…ほんとにもう、ピアノちゃん…。動き方も明らかにキャラに沿った動きをしていて、ピアノちゃんはやっぱり終始おっとりした動きに見えた。ウィッシュミーメルのメルちゃんは、ずっと優しい動き。本当に優しい心を持った子なんだなあ、って、しみじみと伝わってきた。敵とのバトルの時も(バトルとかあるんすよ)、積極的にバトルしに行ったりはしないで、なんかずっとおろおろとしてて…多分メルちゃんは、もうこうやって真っ暗になったり、みんながバタバタしているだけで、不安な気持ちになっちゃったりするんだろうな、って、そういう心が敏感で繊細な子なんだろうな、って、思ったりした。きっと周りの人たちの不安な気持ちとかを、すごく強く受け止めちゃったりする子なんだろうな、って…(だから反対に、みんなの嬉しい気持ちも、深く受け止めて、一緒に嬉しくなったりもするんだろうね…郵便配達のお仕事は、だからとってもメルちゃんに向いている。一緒にお手紙を読んで、一緒に喜んだりしてくれそうですものね)。

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 みんなが着ているお洋服も、とっても可愛いの。ああ、可愛い…って、ため息が出るくらい可愛い。キティちゃんのお洋服は袖がいちごだらけで、スカートの裾はドーナツだらけだったり。てんこ盛りでカラフルで、見ていると、私もみんなみたいにもっとおしゃれしたい!って思う。「おしゃれして出かけよう」っていう歌詞にもあるように。

 そうそう、音楽もとってもいいんだ。「KAWAII FESTIVAL」っていうメインのお歌*1も、なんか、涙が出てきちゃう。まだ何にも感動要素ないはずの段階で。──ミラクルギフトパレードは、パレードと言いながら、はっきり起承転結のストーリーを持ったミュージカルショーのような出来になっているんだけど、その最初の方の段階で、もう泣いちゃう。尊くて…他に表現する言葉がなくて、あれなんですが…尊いんです。歌が。「いちご、いちごいちご」の時点で泣きそう。「おしゃれして出かけよう クッキーを手作りしよう」。可愛さ楽しさいっぱいの日常の尊さが、ゆっくりとじんわりと伝わってくる。私もそうやって生きていきたいな、って思う。

 その他にも、何気に随所に盛り込まれている、サーカスとかアクロバティックな要素も、普段あんまり見るものではないから驚かされるし、とにかく、ありとあらゆる要素が融合して、結びついて、奇跡的に成立している、絶対に見る価値のあるパレードだと思うのです。何度でも。…DVDも、もちろん買った。

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闇の女王たちの言っていること、全部わかる…

 しかし何と言っても、後から後からとっても心に残るのは、ちょっと意外だけど、「闇の女王」たちのこと。一応、敵役、悪役、ってことになるのだろうけれど…起承転結に必要な…でも、私なんかが言うまでもないことですけど、そんな単純な話じゃないんです。

 だって、闇の女王たちの言っていることが、全部わかる。「昼間が嫌い 光が嫌い 笑顔が嫌い」って。

友達なんて欲しくない

真っ暗な夜こそ信じられる

(闇の女王歌唱パート)

孤独という名のベール身にまとって 全ての眼差しに背を向け

光なんて何も見えない 何も感じない

(闇の女王歌唱パート)

本当に私、こういう気持ちになることが、時々あるもの。それにこれは、私だけじゃないと思う。

「誰だって、暗い気持ちになることがある!

光を見たくないときも!」

(キティ台詞)

 誰にだってあるの、ってキティも言っていた。誰にでもあるのは、「3つのハート」(かわいい、おもいやり、なかよく)だけじゃない。闇の女王たちのような気持ちも、また、誰にでもあるのだ。キティは、そうも言っていた。──だから、キティにだってあるのだ。マイメロにも、クロミちゃんにも(クロミちゃんには確かにありそうだ…)、キキララにも…あと、うん、きっと「みんなのたあ坊」にも、あるんじゃないかな…(いつも楽しそうにお口を開けているけど、あると思うよ…)。

3人で支えあってきた

 だから、闇の女王たちのことを考えてしまう。これまで、たった3人だけで支え合ってきたんだって、言っていた。

心を闇に閉じ込めて

3人だけで生きてきた

(闇の女王歌唱パート)

たった3人でも(さらに手下たちも)、仲間がいるだけよかったよね、とも思うけど…でも、心の暗闇の牢獄のなかで支え合っているのは、心強いと同時に、やっぱり3人で一緒に外に出たいと思うよね。

助けてよ、苦しいよ…

 それに思う。なんでわざわざ、闇の女王たちは、キティたちの集まっているピューロビレッジにやってきたのか、ということ。しかも「お祝いのフェスティバル」が開かれているときに、わざわざ。

 光が嫌い、昼間が嫌い…なら、一番キラキラして、一番明るいパーティの時に来るのは、もっともダメージになるはず。みんなが寝静まった頃にでも見計らって、こっそり知恵の木の力を奪えばよかったのに、と思う。

 だから、やっぱり闇の女王たちもまた、フェスティバルに参加したかったんだと思う。一緒に歌って、踊ったりしたかったんだ。そして、みんなとお友達になりたかったからだと思うんだ。

 いや、もっと切実な気持ちが、あったのかもしれない。つまり、助けて欲しかったのかもしれない。助けてよ、ここから出してよ…って、言っていたのかもしれない。キティたちなら、助けてくれるかもしれない、また、その力があるかもしれない、って思ったのかもしれない。パレードの冒頭、一番最初に、ちらっと「闇の女王」たちのコーラスの声が聞こえる。DVDだと、「ミラクルギフトパレード」のタイトルロゴの時にこの声が聞こえるのだ。──パレードそのもののタイトルで、この声が使われているということの意味…闇の女王が主役なのかもしれない。キティでもダニエルでもなくて。・・・いや、やっぱりキティもダニエルもまた、闇の女王なのだ。キキララも、マイメロも、クロミちゃんも…見ている私たちも…。

 とにかく、一番最初に、闇の女王の声が聞こえて、再び、パーティーを始めよう!っていう時にも、聞こえる。その時は、キティにだけ聞こえている、というような設定になっている(少なくとも隣にいるダニエルには聞こえていない…ダニエル、おおらかで、優しい、いいやつ…)。私は思う。あれはきっと、「寂しいよ、助けてよ、苦しいよ…」って、言っていたんだって。そうやって、大々的に登場するよりも前に、すでに何度もみんなに呼びかけていたんだと思う。──そういえば、精神的に不調に陥ってしまう人たちは、そうなるよりも前に何度も、シグナルやメッセージを送っていることがある、って聞いたことがある。たいていのひとが、見逃してしまうけど…。まるでそんな風にも見える。

 だから、キティたち(&私たち)の「信じる心」によって救われた闇の女王たちは、「みなさん、力を貸してくれて、ありがとう!」と言う。

夢見ていた 胸の奥で

信じてくれたから 輝かせられたの

3つのハート ありがとう 今 あなたに

(闇の女王歌唱パート)

さっきは迷惑をかけてごめんなさいとか、謝れよ、とか…そんなこと、誰も言わない。そう、謝罪なんかしないし、誰も求めない。そんなことは、全く重要じゃない。それよりも、ありがとう、助けてくれて、って、ただ感謝している。みんなも、助かってよかったね、って、思うだけ。そして知恵の木の上に虹がかかると、「わあ、虹!」「わあ〜!」「虹だ〜!」って、もう喜んだりしている…キティたち「いちご王国のお友達」の、なんと言う人の良さ…ここでもまた感動してしまう。

「わんぱく いじわる 怒りん坊も」──ハローキティ

 こんな、キティたちによる闇の女王たちの救済というテーマと重ねて聞くと、次のよく知られた古い歌の歌詞もまた、深みを持って噛み締められてくる。

わんぱく いじわる 怒りん坊も

やさしいキティとー緒なら

つられてやさしくなっちゃうの

(HELLO KITIY『ハローキティ』作詞:八坂裕子 作曲:宮川泰

 いじわる、怒りん坊、泣き虫、さびしがりや…サンリオは、人のこういう側面を、しっかり見つめてから、初めて本当の「みんななかよく」にいたれる、と考えている。そういう現実を出発点に、前提に、ちゃんと置いている。

 人と簡単に分かり合えない、1人の殻に閉じこもりたくなる時もある、さらにそれは争い、対立、そして悲劇を生むことだってある…。そういう現実を、絶対に忘れない。「夢と魔法」などというもので、それらを上から塗り潰そうとはしない。忘れましょ、忘れましょ、とは言わない(『おねがいマイメロディ』でのマイメロのおばあちゃんのセリフだが)。そうではなく、それらの暗い現実の内部に分け入って行って、それらを昇華させていくことで、理想に近づこうとする。

 可愛いキャラクターグッズを展開する企業の社長メッセージが、まず「戦争」の話から始まる。どうしてひとはこんな目にあわなければならないのか…と。「91歳になった今でも、どうして、あの時、甲府の善良な市民がそのような目にあわなければならなかったのか?・・・私には分からないままです」*2

 サンリオには、はっきりと思想がある。その思想は、しかも、思想書哲学書、教訓、といった形でではなく、なんと、大人から子どもまで楽しめる、楽しいパレードや、ショー、いちご新聞、さらには各種のキャラクターグッズ、そしてポップコーンマシーンなんかを通じて、伝わってくるのだ…なんという奇跡的な所業だろうと思う。

 ミラクルギフトパレードは、いうまでもなく、何かお説教されたり、お勉強したり、難しく考えたりして見る必要など全くない、本当に楽しい、ワクワクする、ひたすら可愛いパレードだ。本当にそうなのだ。それなのに、その背後にある思想まで、いつの間にか、その楽しい体験を通じて、自然と伝わってくるなんて…こんなことってどうしてできるの?こんなことって他にある?って思ってしまう。

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「つらいことや かなしいこと」──キキララ

 キキララのストーリーも、地球には辛いこと悲しいことがいっぱいなのだ、というところから話が始まる。

 ちょっとわがままで甘えん坊なキキとララを、修行のために地球に行かせよう、とお父さん星とお母さん星が考えたのは、なぜなら、「地球には いろいろ つらいことや かなしいことが たくさんあることを いつも雲のうえから ながめて 知っていたからです」*3

 ──ピューロランドの「トゥインクリングツアー」の最初に見る映像では、修行のために、キキとララを地球に送ろうと思う、というお父さん星に対して、「何もそこまでしなくても…」というように、お母さん星が答えている音声が入る。このひとたちの間では、地球に子供を行かせるというのは、そこまで酷なこと、厳しいこと、という前提・常識があることが、ここで描写されている。そう、天空の「おもいやり星」ではない、私たち人間が住むこの地上(=地球)は、天使たち(=ふたご星)にとっては涙の谷であって、生きるのに酷な場所、辛い場所、悲しい場所なのだ。あるいはまた、天使とよく似た心を持った人間にとっても、また、そうなのだろう…。…ねえ、すごいと思わない? あの「キキララ」の大前提にあるストーリーが、これだよ? 私たちの住んでいるこの世界が、いかに過酷な場所なのか、っていうところから始まるなんて…。実際、このストーリーには続きがあって、ふたご星の2人が地球にやってきて最初に出会う人間は、「泣いている子供」なのだ(雪の降る夜に、窓から顔をのぞかせる2人の絵を見たことがあると思いますが、ストーリーではこの場面にそれが位置づけられている)。このストーリーではお留守番で寂しい子供、っていうことになっているけど、他にもいろんな理由で、この地上には、泣いている子供たち、あるいは、子供のように泣くしかない大人たちが、たくさんいることを私たちは知っている。

 そんな過酷な場所で、キキとララの2人は力を合わせて生きているっていうだけで尊いし、さらに、人間たちを時々助けてくれたり、見守ってくれたりもしているのも、いっそう尊い

 「あなたの友だち キキとララ」、ほらいつもすぐそばにキキとララはいるよ…っていう歌があるけれど(Little Twin Stars「あなたの友だちキキとララ」作詞:八坂裕子 作曲:惣領泰則)、そうやって、この過酷な地上で生を送る私たちを励ましてくれる。

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疎外感──サンリオ男子

 アニメ『サンリオ男子』も、戦争を背景にして、「ともだち」どうしが殺し合いをしなければならない場面から始まる…って書くととても衝撃的だけど、これは嘘ではない。もちろん、男子たちが文化祭で演じたミュージカルのクライマックスの場面として、ではあるのだけど。けれどもこのミュージカルは、ミラクルギフトパレードをヒントに作られた、ということになっているし、それに全編を通じて見ていれば分かる通り、このミュージカルのお話は、彼ら男子たちのそこまでのストーリーをなぞったものでもある(そのことは見ていれば分かるし、さらにわかりやすく、男子の1人である水野祐が男子たちの普段の様子をメモにとって、それをベースにミュージカルの脚本を仕上げている様子が描写されている)。もちろん現代日本の高校生男子たちの日常を描くお話だから、本編で殺し合いや戦争は直接出てはこない。しかし、男子たちは、仲良くキラキラとした高校生活を送っているようで(実際、それは嘘ではないのだが)、同時に、仲良しのはずの仲間にも言えない悩みや、孤独、疎外感を、いつも同時に抱えながら、過ごしている。「みんな仲良く」は、一筋縄では達成できない、それは、ぶつかり合いながら、悩みながら、ちょっとずつ模索していくしかないものだ。そういうことを、教えてくれているように思う。サンリオ好きという趣味でいきなり意気投合、俺たち仲良しサンリオ男子!みたいな、シンプルなストーリーでは全くない。「そんなシンプルな話なんだろうなと思った…でも、違った」。──これは、康太がミラクルギフトパレードを見たときの感想だけど(第7話)、『サンリオ男子』もまた、ミラクルギフトパレードと同じなのだ。アニメの前半では、何度も一触即発、あと一歩で殴り合いにまでなっているのではないかと思われるような対立を経て、5人の男子はちょっとずつ「仲良し」になっていく。後半でも、ピューロランドで「親睦を深め」(会長)、ミュージカルづくりという共同作業を経てますます絆を深めていっている・・・ように見えるそんな最中でも、同時に、一人一人がまた別の悩みを抱えていたり、孤独感に苦しめられたりしている様子が描かれる。想像をはるかに超えた複雑なストーリーで、「みんな仲良く」の理想が、いかに簡単には達成できないものであるかが伝わってくる。自分の頭で考えて、信じて勇気を出して自分から行動しなければ、それは手に入らない。

 「みんな仲良く」の理想を体現するピューロランドの中心に「知恵の木」が置かれているのも、そういうことなのかな、と思う。「みんな仲良く」のためには、馬鹿みたいにヘラヘラしててはダメで、「知恵」が必要なのだ。そういう意味でも、ミラクルギフトパレードとよく重なる。

願い続けよう 知恵の木とともに

世界中が 笑顔になるように

(ミラクルギフトパレード序盤コーラス)

「世界中を一つにする知恵の木の魔法」(コーラス歌詞)っていうのは、いわゆる普通の魔法のことじゃなくて、「知恵」が持つ驚くべき力のことを言っているのだと思う。

1人で閉じこもりたいとき──ウィッシュミーメル

 だから、いつも笑ってなければダメ、嘘でもいいから笑顔を作ろう、嫌な現実を忘れていっときの妄想に浸って気持ちよくなろう…なんていうことは、絶対にサンリオは言わない。

 ウィッシュミーメルのメルちゃんも、ホームページや、ピューロランドのショー*4を見れば分かるけれども、いろんなことがあったんだ。メルちゃんの可愛さの特徴は、一つにはニコってなったあのお口だと思うけど、前からずっとあんなお口をしていたわけじゃない。悲しくて、自信がなくて、閉じこもっちゃったこともあって…。もう、そんなお話を聞くと、メルちゃん…!って、いっそうメルメルドールをよしよししたくなる…。そんないろんなつらいことを乗り越えて、ようやく今のメルちゃんがいる。だから、あのニコッとしたお口が、なんだかとっても尊いものに思えてくる。

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夢の国マリーランドに馴染めない──クロミ

 クロミちゃんは、マイメロたちが暮らす夢の国「マリーランド」に自分の居場所が見つからず、人間界へと逃げ出している(『おねがいマイメロディ』)。

 「マリーランド」は、マイメロが「私はマリーランドでとっても幸せに暮らしていたの。みんなとお花を摘んだり、クッキーを焼いたり」(第2話)と話しているように、まさに「いちご、いちごいちご」の、楽しくて可愛い日常で満たされているはずの場所…それなのに、クロミちゃんのように、そこに馴染めず、うまく関われないひとたちもいるのだ(バクや、バク一族、クロミーズ5のみんなも、そんなふうに見える)。──それはよく知られている通り、ちょっとしたすれ違いから生まれているかもしれない…マイメロたちマリーランドの住人は、おおらかで、優しくて…だからちょっとマイペースすぎるところがあったりして…天然なので…。

 そんなクロミが人間界で恋した青年、柊恵一に向けて歌われた歌(正確には、魔法で人間の姿に変身したクロミちゃん=クルミ・ヌイの歌)では、

「同じなにかを 失くしたんだね」(『クロイヒトミ』*5

という歌詞がある。おそらくこれは、「愛」(特に、本当の意味で「愛される」こと)とか「夢」とか、だろうと思う──『ミラクルギフトパレード』で言えば、「3つのハート」。2人とも、そういうものを、失ってしまった…少なくとも、いろんな理由で(どんな理由かはそれぞれ描かれる…)、一時的にそれらに背を向けなければならなかった。「闇の女王」たちと同じように。柊恵一の精神世界では(「眠りの夢」の中とされている…つまり無意識とかそういうことだろうと思う)、風の吹きすさぶ荒野で、ゴミ袋にたくさんの「夢」が放り込まれていた。

「ずっとずっと、退屈だったんだ。何をやっても…。」(柊恵一、第43話)

クロミちゃんも、こんな柊恵一の心境と共通するものがあったのではないかと思う。だから恵一が「ダークパワーの曲」に魅せられたのと、クロミちゃんが「このひろーい世界でアタイの味方は、メロディ・キーとメロディ・ボウだけなのさ!」(第4話)と語ったこととは、とてもよく似ている。──そして、こういう心境はまた、「闇の女王」たちのそれともよく似ている。

 マリーランドの仲間たちも、クロミちゃんのパパもママも、とても優しい人たちだけど、クロミちゃんのそういうところは、すぐにはちゃんとはわかってはあげられていなかったのだ。マイメロと比較されてばかり!とか、わかってもらえない!と家で暴れたりとか…面白く描かれているけれども、そういうことなんじゃないかと思う。

 でもクロミちゃんも元々は、「マイメロちゃんと仲良くなりたいな、って!」、新品の「ノート」の1ページ目に書いちゃうくらい、みんなと仲良くなりたかったのだ(第42話──あの有名なシーン…ピアノちゃん、お鼻!)。クロミちゃんは最終話に近づくと、本当に感動的な活躍を見せるし…背を向けたこの世界(人間界も、マリーランドも)も、”全部なくなっちゃう”のは、絶対に受け入れられなかった(あの柊恵一さえも…ほんのちょっとだけ救われる、「僕の、マイ・メロディ[=たぶん、彼がずっと昔に「失くした」もののこと]」に気づく…渋々…)。

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かわいいギフト、みんなにも届くからね

 「いちご、いちごいちご」な、可愛さ楽しさいっぱいの毎日は、だから、暗いものを上から塗り潰すようにして得られるものじゃない、ってこと。蓋をして、なかったことにして、見なかったことにして…そうやって得られるものじゃない、ってこと。そうじゃなくて、そういうものにも向き合わないといけないんだ。「ただのガキ」じゃなくて、本当の意味で大人にならなくちゃいけないんだ(世間に合わせて、馴れ合って、臭いものには蓋をする…そういう大人じゃない)。──ほんと何度もこの水野祐(サンリオ男子)の言葉を使ってしまうけど、とってもしっくりくる。ピューロランドの前でガチ喧嘩のシーン…ああ、そういうことだったんだって、目がさめるような気がしたもの。『サンリオ男子』の最終話で。サンリオが伝えようとしているのは、そういうことだったんだって。ミラクルギフトパレードは、まさにそのことを伝えてくれている。

 思い出を持って帰ってね!って、キティちゃんは言っていた(「ミラクリュージョン★Happiness」ショー)。そして、また会おうね、って。ピューロランドは、平日なら5時で閉園してしまう。夜になり、お風呂に入って、ベッドに入って…そしたらまた次の日が来る。ピューロランドのことを思い出しながら、昨日撮った写真を見たりしながら…、それでもまた生活を始めないといけない。臭いからといって蓋をするわけにはいかない。そういう勇気というか、元気を、本当にサンリオは贈ってくれる…贈ってくれようとしているよね、って思う。一つにはこれが、ミラクルギフトパレードの「ギフト」っていうことなのだと思う。

・・・笑顔の贈り物さあ届けよう

青空をかけていく鳥のように 未来へとみんなで飛び立とう

・・・

それは素敵な約束 小さなミラクルギフト

みんなにも届くからね かわいいギフトが

(終盤コーラス)

(んもう〜、だって、そうでも思わないとやってられないよ、次の日から日常生活なんてさあ〜…)

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*1:作詞・作曲:前山田健一

*2:辻信太郎、「株主・投資家の皆様へ:トップメッセージ」、サンリオ公式ホームページ[2020/01閲覧]

*3:リトルツインスターズ物語」──いちご新聞でのストーリーを基にした昔のミニ絵本…の復刻再編集版を、私は持っている(「リトルツインスターズ物語」絵本、『Little Twin Stars 70's プレミアムBOX』、学研教育出版、2014年)。「トウィンクリングツアー」での映像で、この絵本のイラストの一部が、簡単なアニメになったものを見ることができる。あとは、キキララのパズルゲームでも、最初に起動した時にほぼ同じような映像が見られた。…今はわからない。よかったら探してみて。

*4:「ウィッシュミーメル のChance For You」を見た。かわいいメルちゃんが優しい動きでポンポン、と手を叩いたりしながら踊っていたのが、とても印象に残っている。

*5:クロミクルミ・ヌイ Ver.~、作詞:山田ひろし、作曲:渡部チェル。歌詞は、「だからふたりで探せばいいの/たとえ誰かに 責められたっていいよ」と続く。これもまた、孤独の中、3人だけで支えあってきた3つ子の闇の女王たちの気持ちと似ている。